昨日はなかなか眠れなかったわよ。
久しぶりに会ったからじゃないわよ、誤解しないでちょうだい。
人形が生きているみたいで、興奮して寝付かれなかったのよ。
動きもすごいし、目が動いたり、眉毛が動いたり、口までもね。特に細かな仕草が抜群よね。懐紙を口元にとか、巻物を手に取ったりとか、・・・。
小道具もうまくできているわよね。
大がかりな舞台装置の中で、人形を操りながら自在に動き回るだから、すごいわね。
生きた人間が演じているようで迫力満点。
生まれて初めてだったけど。あら、そういうあなたも初めてだったのか。意外なのね。
たしかにこうやって誘われなければ見ることなんかないもの。
人形浄瑠璃って、歌舞伎なんかと違って敷居が高い感じがするから。
けっこう着物姿の方もいるわね。年取ってきて、着物がすてきに似合うっていいわ。
私もいちおうおめかしてきたけれど。
失礼ね、スカートもはくことありますから。
人形が大きいのには驚いた。あれを振り付けながら操るんだからすごいわよね。けっこう重たいでしょ。
席も見やすいところで、表情もしっかり確かめられたし、うんうんうなっている声もしっかり、あら、失礼!
一人で何役もやって、語りの部分もあったりして、強弱のメリハリをつけている。
字幕が出るんでわかりやすかったわ。けっこう現代風な言い回しもあったような気が。
それにしても人形遣いの方は、重労働ね。黒子の方も大変そう。そっちみたいにお腹がずいぶん出ている人もいたけど、あれじゃあ、ちょっと目立ちすぎね。
だんだん顔も紅潮してきて、役柄というか人形になりきっていくのね、きっと。人形を操りながら目元なんかもしっかり演技しているものね。
義太夫さんもだんだん熱を帯びてきて、舞台と一体となって行く感じがすごかったわ。
あら、あの方、正座イスをさっとおしりにあてがっているわよ。正座じゃきついのかしらね、正座ができなくて・・・。上下付けて羽織袴というのも大変よね。
そうじゃないって、その方がお腹に力が入って声が通るからなのかな。
落語家も正座ができなくなったら高座に上がれないのかしらね。座椅子じゃみっともないし、とか。
相撲取りがおつむが薄くなって髷が結えなくなったら、やっぱり引退かしらね。
一般人はいいわよね、そういうことを気にしなくて。
そう、お坊さんは大変よね、まさか正座イスに座ってお経を唱えるなんて・・・。ま、今はイス式が多いかしらね、葬祭場では。
・・・
やっぱり幕間でおはぎを食べるって変かしらね。「おかめ」っていうお店、この近くにあるんで、買ってきたけど。ふつうのと、ごまときなこと・・・、けっこう大きくて重たいのね。
じゃあ、これはお土産ということにして、コンビニで買ってきたサンドイッチとおにぎりで済ませましょう。


さて、後半よ。
ストーリーは大奥物語って感じかしら。意地悪な局・岩藤といじめられて自害する尾上、その召使いのお初。この3人が主人公。
最初の「筑摩川」の段はちょっとわかりにくかったわ。真っ暗な場面で誤って主君を殺してしまった、ということなんだけれど。
何となく「仮名手本忠臣蔵」の、ほら、有名な五段目「山崎街道」に設定は似ているわよね。それから六段目「与市兵衛内勘平腹切の場」が次の「又助住家の段」。お軽・勘平のお話とつい引き比べてしまったわね。
岩藤と尾上との関係も「忠臣蔵」の高師直と塩冶判官との関係みたいだし。
「草履打の段」は、春爛漫の鎌倉の鶴ヶ岡八幡宮という華やかな舞台の中で、岩藤が尾上をいじめる場面、その対照がうまいわよね。
「長局の段」では尾上がその無念さから自害してしまう。出かけたお初が烏の鳴く声や通りすがりの二人連れの会話に不吉を感じ、屋敷に戻ると、尾上はすでに事切れていたってわけね。
でも、そこからまたまた話が展開していくのね。
お初が見事、岩藤を討ち取って、主君の恨みを晴らす、と同時に、岩藤たちのお家乗っ取りの悪事がばれて、晴れて二代目尾上を名乗ることになって、ということで大団円。
途中、長局の段でお初が「忠臣蔵」を引き合いに尾上の自害の決意を諫めるなんかもちょっぴりユーモアも入れたりして・・・。

けっこう人が死んじゃう。歌舞伎なんかもけっこう簡単に死んでしまう。遺骸とか首だけが置かれているなんてよく見るけれど。
恋の話でもだいたいが道行き、死出の旅路が多いしね。
4時に始まって、はねたのが8時30分をゆうにまわっていたけど。飽きさせなかったわね。はじめは途中で眠くなるんじゃ無いかって心配したけど。
・・・
とても貴重な機会をつくってくれて有り難う。
そうそう、今度、甲州街道歩きの続きをやるって言っていたけど、熱中症にはくれぐれも注意してよ、年なんだから。ま、新緑の中の旧道歩きもいいと思うけどさ。
おばばみたいに、足腰が痛くて歩くのもままならないじゃ、困るけれど。
では、また。