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Channel: おやじのつぶやき
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読書「歴史が後ずさりするとき―熱い戦争とメディア」(ウンベルト・エーコ)岩波書店

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 大部だが刺激的な書。一気に読み進められた。イタリアの評論家の書。訳者(リッカルド・アマデイ。この人もイタリア人。)のあとがきによれば、原題は、「A passo di gambero.Guerre calde e populismo mediatico」(「エビの歩き方で。熱い戦争とメディアのポプピュリズム」このくらいなら私でも訳せるね)。エビは前へ進むとき、後ずさりするような格好になる。当人は、前進しているつもりだが、端から見る(別の観点から見れば)後退しているように見える。その意をくんで表題にした、とのこと。9・11以降の世界情勢を緻密に分析しながらの現代批評論集。現代イタリアの知識人の書を読むことは(古典以外では)、ほとんどなかったので新鮮な印象を持った。
 一方で、言語学者としての学識をもとに、絶好の機会を得て、今の時代(政治・文化・社会・・・)への厳しい視線と、それでも希望を失わずになんとか混沌とした世界に対峙していこうとする人間的な眼差しのおかげで、納得しながら読み進められたことがよかった。
 グローバリゼーションがいっそう進む中での軍事衝突、宗教のみならず政治の世界に於いても、新たな「原理」主義の台頭。そうして、これまではそうした傾向に対して、批判的に警鐘を鳴らしてきたマスコミ・メディア(とりわけTV)。ますますとめどなく愚にもつかないほど大衆娯楽化していく一方の様相を呈している。
 「社会が狂信と軽信にますますおおわれ」、(あとがき)歴史が進歩に向かって(より英知を発揮して)進むというよりも、後ずさりはじめたかに見える21世紀。もとの書の刊行は、2006年。7年前のものではあるが、こうして日本語訳が刊行され目を通したとき、2013年の今を先取りする先見性に改めて、感心。

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