相変わらず洒脱なショートショート(といっては失礼ですか)。川上さんの感覚・アンテナはどういう張り巡らし方、構造をもっているのだろう。というのも、この中の「ひでちゃんの話」。その導入部。
「秋葉原」駅の総武線ホーム。上り線に「包丁研ぎ教えます」という看板。こちらも、たまに駅のホームで待っていると、たいていが夜遅く、人を送りがてらになかなか来ない電車を待っていると、きまってその看板に目が。隣の人に「あれ、見てよ、包丁研ぎ教えますって」「ふ~ん」以上、終了!
なかなかインパクトのある広告でした。(今もあるのかどうか、ここ何年も乗りません、訳あって・・・)。その看板に惹かれて会社勤めを辞めて弟子した女友達の「ひでちゃん」の話し。・・・何だか共通の話題が出来た感じで、勝手な親近感が(といっても、誰でも気づく「超」有名な看板でしたが)。
このようにあり得ない話しでありながら、あり得る話しにしてしまう「川上ワールド」。全編がそうです。引き込まれます。標題の「猫を拾いに」も、プレゼントをたらい回しにする習慣のところへ拾ってきた「猫」をプレゼント、いつものようではなく、いっこうに手放す気がないので、自分が猫を拾いに行く、という話し。
最近は、あけすけなセックス話もちりばめて、(先日、27、28歳になった女性3人と亀戸の酉屋さんで飲みましたが、そっちの話しで大いに盛り上がった! 20代後半でこうなのだから。推して知るべし。)ちょっぴり哀しいお話も・・・。
人間と非人間(でも、生きているもの同士の不思議な交流)、奇妙な人間関係(不自然そうで不自然でない)など、軽妙な語り口についまねをしたくなるような文体。誰でも出来そう、で出来ないのが、この方の言語感覚・文体の大きな魅力です。風俗(俗な世界)を扱っていながら「深み」のある展開、内容、気分にさせてしまうことは、凡人にはけっしてまねできません。