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Channel: おやじのつぶやき
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読書「中島敦『山月記伝説』の真実」(島内景二)文藝春秋

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 高校現代文の教科書の定番、中島敦「山月記」。日本の高校生の多くは、小説の教材として、1年生で芥川龍之介の「羅生門」、2年生で「山月記」や夏目漱石「こころ」、3年生で森鴎外「舞姫」、が順当なところですか。
 その「山月記」の挿絵には、きっと「虎」の絵が。

 中島敦は、おそらくこうして国語の教科書に掲載されなければ無名の作家のまま埋もれてしまったのではないか? とすら思います。中島敦の他の作品、たとえば「李陵」とか「光と風と夢」を読む人がどれほどいるかとすら。
 原典となった中国の「人虎伝」。当時、有名だった種本。さまざまな作家が其の中国の怪奇説話を小説化していた。そういう中でどうして中島敦の「山月記」がかくも教科書に載って、日本中の高校生に読まれ、高校時代に読んだ小説として「羅生門」、「こころ」、「舞姫」など今でも名高い作家達と肩を並べているのか? そこには、中島敦を巡る友人知人達が織りなしたドラマがあった! ということを明かした書。
 中島敦の人となり、友人達との関わり・・・、特に夭折した作家・中島敦の死後への思い、無念な思い、果たせぬ思いを受け止めつつ、「山月記」を通して中島敦の存在を今にまで世に知らしめた人々。その人々にも様々な思いが交錯する。
 登場する人物達も有名、無名、すでに忘れ去られた人々。今東光、佐藤春夫などが翻訳した(翻案した)「人虎伝」も紹介しながら、中島敦の「山月記」にはそうした作品などの影響やそれを超えようとする秀でた創作力を有していたことをなどにふれる。
 深田久弥、釘本久晴、氷上英廣、吉田健一、中村光夫、・・・。
 中島敦の分身を「李徴」と見立て、では「袁傪」は誰か、誰がモデルか? 文学作品の読みとしてはけっしていいとは思えないが(中村光夫の『風俗小説論』ではないが、作品を作者の「私」小説として読解することの弊害)、そういう立場で類推し、教科書編纂にあたって大きな力をもっていた文部官僚・釘本の関わりを詳細に追究していく。
 これこそが、新たな「山月記」伝説の誕生ではないか、と思った、事の善し悪しは別として。
 ところで、教科書に載せられた虎の絵はどういう絵だったんだろう。とんと思い出せない。 

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